[業界コラム]

エンタメ業界のAI動向を概観する|バーチャルタレントから権利の論点まで

2026-07-06 ・ 約7分で読めます

エンターテインメント業界では、AIが制作の道具にとどまらず、表現の担い手そのものになりつつあります。本記事では、バーチャルタレント・AI音声・生成AIという3つの流れを概観し、あわせて権利と信頼性という避けて通れない論点を整理します。

エンタメ業界におけるAI動向の全体像

エンタメ領域でのAI活用は、大きく分けると二つの方向で進んでいます。一つは、企画・脚本・映像・音楽といった制作工程を支援する「道具としてのAI」。もう一つは、バーチャルタレントやAIキャラクターのように、AI自体が観客の前に立つ「出演者としてのAI」です。

前者は多くの制作現場で静かに浸透が進む一方、後者は表現や興行の在り方そのものに関わるため、期待と慎重論の両方が語られています。この二つを分けて眺めることが、動向を冷静に理解する出発点になります。

なお、この領域は変化が速く、断片的な話題や未確認の情報も流れやすい分野です。動向を追う際は、企業や団体の公式発表、公的機関の資料といった一次情報を基準に確認する姿勢が、判断を誤らないための前提になります。本記事でも、個別の事例の断定は避け、一般的な流れの整理に徹します。

バーチャルタレントの定着と多様化

CGやイラストの姿で活動するバーチャルタレントは、動画配信を中心にすでに一つのジャンルとして定着しています。当初は個人発の文化として広がりましたが、近年は企業がブランドの顔として起用したり、事務所が組織的にプロデュースしたりと、活動の形が多様化しています。

また、従来は「中の人」と呼ばれる演者が支える形が主流でしたが、対話や発信の一部をAIが担う形態も現れています。人がどこまで関与し、AIがどこを担うのか。その組み合わせ方の設計そのものが、各運営者の個性になりつつあります。

企業がバーチャルタレントを検討する場合、注目すべきは技術よりも継続性です。姿や声よりも、長期にわたって一貫した人格で発信を続けられる体制があるかどうかが、視聴者との関係を左右する要素として一般に重視されています。

AI音声がもたらす表現の広がり

音声合成技術の進歩により、自然な抑揚を持つ声をAIで生成できるようになりました。歌唱・ナレーション・キャラクターボイスなど、活用の場面は広がっています。多言語展開が容易になる点も、コンテンツの海外展開を考える事業者にとって注目されている要素です。

一方で、実在する人物の声に似せた音声を本人の許諾なく作れてしまう技術でもあるため、声という人格の一部をどう守るかという議論が各国で続いています。声優や歌手の権利保護と技術活用の両立は、業界全体の課題として意識されています。

生成AIと制作現場の関係

画像・映像・文章の生成AIは、企画書のイメージ出しや絵コンテの試作など、完成品の手前にある工程で使われる場面が一般に多いようです。仕上げの判断は人が担い、その手前の試行錯誤の回数をAIで増やす。この分担が、道具としての生成AIの実務的な価値といえます。

同時に、学習データに含まれる著作物の扱いや、生成物がクリエイターの仕事とどう共存するのかという議論は現在進行形です。制作に生成AIを使うかどうか、使うならどの工程までかという方針を明示する事業者も見られ、方針の透明性自体が信頼の材料になりつつあります。

権利と信頼性という二つの論点

技術の進歩が速い一方で、それを支える権利や信頼のルールづくりは、各国で議論が続いている段階です。エンタメとAIの関係を考えるうえで軸になる論点を整理すると、次のようになります。

いずれも一つの正解があるというより、事業者ごとに立場と方針を示すことが求められる領域です。

  • 肖像・声の権利:実在の人物に似た姿や声を生成する行為への許諾と対価の在り方
  • 著作権:学習データの適法性と、生成物の権利帰属の考え方
  • 信頼性:AIが関与したコンテンツであることを、観客にどう開示するか
  • 労働との共存:クリエイターや演者の仕事とAIの役割分担をどう設計するか

動向を追う側から、設計する側へ

こうした流れは、エンタメ企業だけでなく、タレント起用やコンテンツ制作を行うすべての企業に関わります。重要なのは、流行に飛びつくことでも様子見を続けることでもなく、権利と信頼性への向き合い方を自社の言葉で設計しておくことだと考えられます。具体的には、AIをどの工程で使うのか、使ったことをどう開示するのか、演者やクリエイターの権利をどう守るのか。この三点への回答を持っている事業者から、順に信頼を積み上げていくはずです。

coaris entertainmentも、名古屋・栄を拠点にAIタレントと人間タレントの二層構造で事務所を運営し、自社AIタレントの美冬と美桜の運用を通じて、この論点に実地で向き合っています。業界の動向を自社の意思決定につなげたい方は、関連記事もあわせてご覧ください。

FAQ
AIタレントは人間のタレントを置き換えるのでしょうか?
現時点では置き換えではなく、役割の違う存在として併存する見方が一般的です。継続性や稼働の柔軟さはAIの強みですが、実体験に根ざした共感や現場での存在感は人間のタレント固有の価値です。
AI関与の開示は義務なのでしょうか?
国や地域、媒体によってルールの整備状況が異なり、一律の義務とは言えない状況です。ただし法的義務の有無にかかわらず、観客との信頼関係の観点から自主的に開示する事業者が増えています。
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